まだ本当の恋を知らない
私の横をすり抜け、デスクに座る。

すかさず資料を手につかつかと部長の元へ。

「先程言われていた資料を作成しました。
データは前年度だけでは比較の対照には足らないと思い過去5年分で推移を示しています。
ご不明な点があればどうぞ何なりと聞いてください。」

驚いた表情で私を見つめる部長。

黙って受け取り目を落とす。

全ての資料を見終わり、

「分かりやすい、欲しい情報がちゃんと入っている。」

その言葉を聞きほっと胸をなでおろす。

「きれいな顔して媚び売ってなったチーフかと思った。」

心ない一言に頭に血がのぼる。

あんたに何が分かると、言い返してやろうと思った瞬間、

「違うんだな、君の仕事の取り組みがこの結果なんだな。
見直したよ。」

と、初めて口もとを緩め穏やかな笑顔を見せた。

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