冴えない彼はメガネを外すとキス魔になります!
その時だった。
私の肩をぐっと抱き寄せた大きな手。
咄嗟のことに驚いて引き寄せられた手の主を見上げると、隣には進藤が立っていて、私をじっとみつめていた。
「えっ?誰?」
「あんな人いたっけ?」
「なに、あれ進藤くん?」
「もしかして進藤?」
ざわざわとする声。それもそのはずだ。
いつもの進藤とは別人で、えらく男前になっている。
目元はメガネからコンタクトに変わり、上質のスーツをまとい、無造作に見えるけれど、柔らかい髪質を活かして顔立ちをハッキリさせる計算されたヘアスタイル。
背も高いし、サッカーで鍛えられた体は服を着ていてもバランスが取れている体格だということがわかる。
一見、雑誌にでも載ってるモデルじゃないかと思うほどだ。
いつも猫背で歩いていて、黒縁のメガネをかけている。
完全に男前オーラを捨てている普段の進藤からは、想像できないほどのイケメンに変身していた。
それにはオーダーメイドとわかる上質なスーツが大人の男前度をアップさせている。
主役が新郎新婦だってこともちゃんとわきまえてる。
肩を抱き寄せていた進藤の手は、自然と私の手を繋ぐ形に変わっていた。
「平岡さん、玲奈さん、ご結婚おめでとうございます。」
進藤が2人にお祝いを告げる。
今日子や望美さん、大木さんも「おめでとう」と続いているので私も自然に「おめでとう。」が言えた。
進藤の手のぬくもりが、私の強ばった体を柔らかくする。
「ありがとうございます。」
成二が先輩の大木から挨拶していく。
玲奈も成二の横で頭を下げながら挨拶している。
こうして見ると二人はお似合いだった。
そんな風に思っている自分がいることに少し驚きながら、向かい合った成二と玲奈に改めてお祝いを言う。
「幸せになってね。」
心から出た言葉に嘘はない。
するとそれが伝わったかのように玲奈が涙ぐむ。
そして成二が目を細めながら、ずっと昔、私に向けてくれていた優しい笑顔になっていた。
そして「夏希も・・・」と小さく呟いていた。
それを見ていた進藤の手に力が入ったかと思うと、私を自分の方へと引き寄せた。
再び、肩を抱かれる形になった私のことなんてお構いなしに進藤が成二へと言葉を投げた。
「平岡さん、小沢さん、申し訳ないんですが、僕たちは今日はこのまま失礼します。
また後日ゆっくりとお祝いさせて下さい。」
というと、今日子や大木さん、望美さんにもちょこんと会釈をして
「連れて行きます。」
とだけ言って私の手を握ったまま、出口の方へとスタスタと歩いていく。
「えっ?えっ?」
何がなんだかわからないまま、進藤に引っ張られながら私は会場を後にした。
進藤の行動に周りは大きくどよめく。
冷やかしの指笛を吹く人もいた。
驚いている人、冷やかしている人、不機嫌に見ている人。
そんな中、大木さんと望美さん、今日子だけは満足そうに笑っていた。
三人だけは、進藤が私を連れ去ることを最初から知っていたと後から聞かされた。