冴えない彼はメガネを外すとキス魔になります!
異動してから、幸運な事に夏希さんたちは僕を気にかけてくれて、いつの間にか週末に『246』で呑む事が暗黙の了解になっていた。
夏希さんとの距離が近くなっても、僕はそれ以上は怖くて進めない。
今の関係が崩れるなら、このままで良いとさえ思ってる。
ある日、いつものように『246』にいると今日子さんだけがやって来た。
当たり前のように僕の右隣に座る。
左隣はいつも夏希さんが座ってるからね。
「お疲れさまです。」
と僕が今日子さんに挨拶をしたけど、僕の視線は店の扉に行ってたんだろう。
「夏希は残業。大木さんに捕まってた。」
と、今日子さんに言われてしまった。
「そうですか…」
「残念そうだね。」
「そう言う訳じゃ…」
僕は焦りながら答える。
「前から思ってたんだけどさ〜、進藤、アンタ、夏希のこと好きでしょ?」
ブハっ!!!
僕は飲んでたビールを吹き出してしまった。
「もう、汚いな!」
と、しかめっ面をしながらも、どこか面白そうな今日子さん。
「正直に言ってみな。私は味方だからさ。」
「な、な、なにを急に変なことを言ってるんですか!?」
僕の尋常じゃない焦り方は好きだと言ってるようなものだ。
「今日子サンをごまかそうったって、100年早いんだよ。」
と、僕の首に腕を巻き付けてヘッドロックするから今日子さんの大きな胸が当たる。
すぐ離してくれたけど、僕はまたか!と言う感じで乱れた髪の毛を直しながら体制を整えた。
「ほらね!私がこんなセクシーなヘッドロックを何度もお見舞いしているのにまったくなびかない。」
「今日子さんは冗談でしょ?」
「ま、そうだけど。
いつもは照れてるのに今日は照れてない。夏希がいないからでしょ?
それに夏希がアンタに少しでも触ろうものなら全身、真っ赤っかだもんね。」
「な、な、な、なに言ってるんですか?!」
図星と言わんばかりのどもった言葉を発してしまった。
「ま、いいや。
で、いいこと教えてあげようか〜?大木さんの急な残業。
帰りに夏希を誘うみたいだよ。」
「えっ?」
僕は枝豆を摘もうとしていた形のまま手を止めてしまっていた。
「進藤には関係ないんだよね〜。って、こら、どこ行く!」
僕はお勘定も払わぬまま、カバンだけを持って店を飛び出していた。
「わかりやすいな。ふふ!」
一人残った今日子さんがマスターが小さく微笑んでいた事なんてまったく気づかずに。