冴えない彼はメガネを外すとキス魔になります!
帰る準備をしながら大木さんと話していると廊下を走る慌ただしい音が聞こえて来た。
事務所の扉が勢い良く開いて、飛び込んで来たのは、髪の毛ボサボサ、汗だくの進藤だった。
私も大木さんも目が点。
「どうしたの?????」
驚いて進藤に聞く。
「ハァ、ハァ、ハァ...」
私の顔を見て何か言いたそうだけど、息が切れて言葉が出ない。
「どうしたんだよ!」
大木さんも心配して声をかける。
そのとき、大木さんのスマホに着信の合図。
「あ、大木さん、望美さんを待たせてるんですよね。」
すると進藤が驚いて、「えっ?」という顔をした。
「あ、進藤は望美さんと入れ違いだからわからないか。
大木さんの彼女・・・あ、もう婚約者ですね、以前はここにいて、私、すっごくお世話になったの。」
それを聞いた進藤は「あっ…」と言って俯いた。
なんだ?なんだ?
「進藤、なに?」
訳がわからない進藤に聞いてみる。
「わ、忘れものを…取りに…」
「「はぁ!?」」
私も大木さんも同時に呆れた。
「お騒がせなヤツだな。ったく!
じゃ、俺、あがるわ。
正野、サンキューな!進藤のアホ!」
「お疲れさまです。展示会、頑張って下さいね!!」
カバンを持って「お疲れ!」と手を上げて大木さんは事務所から出て行った。
だいぶ落ち着いた進藤は、自分の席に座り、まだ赤い顔をしていた。
「そんなに大事なもの忘れた訳?
入って来た時は髪は乱れてるわ、メガネはずり落ちてるわ、シャツは汗でビショビショわ…。」
まだズリ落ちている黒縁のメガネを私はそっと直しながら、
「こんなに慌てて、よっぽど大事なものを忘れたのね。」
というと、進藤の黒目が大きくなり、動きが止まってしまった。
「ん?」
進藤は俯いて照れているのがわかる。
でもすぐに顔をあげて質問してくる進藤。
「展示会って?」
「大木さん、月曜日に展示会に行くから今日中に仕上げたいって言われたの。
私も付き添いを誘われたけど、丁重にお断りしました。」
と笑って話すと
「あっ?誘われたって…展示会…か。
・・・今日子さんに騙されました。」
「ん?今日子がなに?」
「なんでもないです!」
進藤はゴソゴソと自分の机の中を漁っていたから、忘れ物でも探しているんだろう。
汗だくになってまで戻ってくるほど大事なものだったんだろうな。