冴えない彼はメガネを外すとキス魔になります!
帰宅するだけだし、進藤が車で送ってくれるというので、簡単な身支度だけして、午前10時過ぎに進藤の部屋を出た。
ふわふわした気持ちのまま、進藤と二人。
エレベーターを待つ間、進藤は私の手を握っていた。
上から降りてくるエレベーターが5階で止まり、扉が開くと同時に、進藤が私の手をすっと離した。
そこには、背が高く人目を引くような甘いルックスの男性と、その男性にお似合いのキレイな女性が乗っていた。
「げっ!」
二人を見た途端、失礼すぎる進藤の態度。
「あっ!!」
と同時に女性が言葉を発する。
隣にいた男性も眉を上げる。
進藤の顔があからさまに仏頂面になるのと正反対に女性は良いものをみつけたとでも言うようにニヤニヤしている。
「乗らないのか?」 と声をかけたのは男性の方だ。
「おはようございます。」
我に返った進藤は男性に向かって礼儀正しく挨拶を交わした。
興味津々にみつめてくる女性の視線を完全に無視している。
呆気に取られている私の背中に手を添えて、エレベーターに乗るように促しながら進藤も乗った。
「少し遅れるってこう言うことかぁ!」
女性がニヤニヤとしたまま。
「ふん。」
相変わらず進藤は素っ気ない。
「ちゃんと紹介しなさいよ、亮介!」
亮介?えっ?呼び捨て?しかも下の名前を?
女性は、私の方へ視線を移してくる。
進藤が口を割らないと思ったのだろう。
「初めまして。亮介の姉の響です。」
えっ?えっ?お姉さん?
すると勝手な事をされては困ると言うように進藤がしゃべり出す。
「夏希さん、例の姉貴です。
そして旦那さんの早瀬隆之介さん。
僕、隆之介さんのデザイン会社を手伝ってるんですよ。」
お姉さんのことを完全に無視してる。
「ちょっと、なんで姉を通り越して旦那の紹介が先なのよ。
この子ね、実の姉よりこっちに懐いちゃってて嫌な感じなのよ。
えっと…夏希さんだっけ?」
と、お腹をさすりながら私の名前を呼ぶ。
どうやら妊婦さんに見える。
「あ、はい。 正野夏希と申します。
進藤くんとは同じ職場でお世話になっています。」
私は咄嗟に自己紹介をしてしまった。
「会社でこの子、冴えないでしょう?」
ここは「はい」と言うべきなのか? と答えに迷ってる間に、エレベーターは1階へ着いてしまった。