冴えない彼はメガネを外すとキス魔になります!
僕は大木さんの疑問には答えず、話を続けた。
設計部に異動になって、夏希さんと今日子さんが
毎週末飲みに誘ってくれること、
仕事面でもフォローしてくれることなど
些細なことでもとてもありがたかったこと。
そして、夏希さんと長い時間、過ごせば過ごすほど、
彼女に惹かれて行く自分を確認していたこと。
「平岡さんが夏希さんを手放してくれて
ありがたいとさえも思っている自分に自嘲してしまうほど、
夏希さんを僕のものにしたかったんです。」
「お前、見た目と違うのな。」
と、熱く語っている僕を驚いて見ている。
「腹黒いとかですか?」
「いや、そうじゃない。
誰にでも譲れないものがあるけど、
それを譲ってしまう事情もある。
でも、お前にとって正野は
絶対に譲れないものになっていたんだろ?って、こと。
執着とかそういうこととは
かけ離れて生きてるように見えるからさ。
お前、飄々としてるというか。」
「前はそうでした。
僕の見た目だけで近寄って来る女性は、
僕が冴えないとわかって離れて行きました。
だから、傷つかないように傷つけられないように
していたんです。
それが大木さんの言う飄々と生きているように
見えたんでしょうね。」
「メガネもそうなのか?」
「ええ、メガネで自分をコントロールしていました。
けれど、夏希さんには通用しなかった。
メガネをかけていても、かけていなくても
夏希さんの前ではカッコ付けても、カッコつけなくても
夏希さんは変わらず、僕と接してくれていました。」
「当たり前だろ。
今まで、お前の周りにはどんな女がいたんだよ。」
「でも自信が持てなかった自分には新鮮だったんです。
自然体で女性に接することができる自分が発見できたんです。」
「あ、そっ。
でも正野も恋愛に関しては難しいヤツだぞ。
慎重すぎて、渡る前に石橋を壊してしまいそうだからな。」
「わかってます。」
僕は一気にしゃべりすぎて喉が渇いた。
目の前にあるビールを一気のみする。