冴えない彼はメガネを外すとキス魔になります!
「で、これからどうするんだ?」
「やっと手に入られそうなんです。手放す訳ないじゃないですか。」
大木さんの口角がいじわるそうに上がる。
「あいつの悪い癖がひとつある。
恋愛で傷つきそうになると・・・逃げるからな。
自分でもわかってるけど越えられない。
越えようともしない。で、最後は『面倒くさい』で片づける。」
「なんとなく気が付いていました。」
「そして、今、お前の信用はがた落ちだ。
お前を信じていいのか、ダメなかずっと考えてるはず。
考えて、考えて、考えすぎて…面倒くさいって言い出すぞ。そのうち。」
「・・・・。」
「手放す気がないなら、早いうちに手を打つんだな。」
僕はふと疑問に思った。
大木さんはなぜそこまで親身に考えてくれているのか。
「大木さんとこんな話をするとは思わなかったです。」
「俺もだ。」
「どうして?」
「さっき話したように正野は恋愛で何かトラブるがあると逃げる癖がある。
ずっと望美が心配してたんだ。正野が入社してから、ずっと可愛がってる。
正野も望美を慕ってるからな。
入社当時に大学の頃から付き合ってた彼氏と別れた時だって、ずいぶん、望美が心配したんだ。
社会人になって環境が変わって別れてしまうなんてざらにある話だ。
別れたりくっついたりするのは勝手だと思う。
泣きたきゃ泣いて、すっきりさせてまた前に進めばいい。
なのに『面倒くさい』と言って誤魔化すから、過去のことに縛られているところもあるんだ。
その時もそうだった。
あっさり別れたから大丈夫なんだと思ってたら、あいつ、飯が食えなくなってな。
倒れてたことがあったんだ。
その時に望美は付きっきりで、あいつの感情を引き出させて、泣かせて、怒らせて・・・やっと笑えるようになった。
あの時のような正野をもう見たくない。望美も俺も。
と言うことだ。
あの頃より大人になってるし、進藤、お前が平岡と入れ替わるように正野のそばにいただろ?
だから望美も俺も、そこまでは心配していなかったんだ。
正野もちゃんと感情を表に出していたからな。
平岡と別れた時、酔っぱらいながら、私、この先お嫁にいけないかもしれません。って、オイオイ泣いてたのを見て、ほっとしてたというか。
ま、本人は覚えてなかったんだけどな。
でもな、その後、お前がちょろちょろと正野の後を追いかけてる姿を見て望美は『こいつだ』って思ったらしい。」
「へっ?」
急に僕の名前が出て来て、間の抜けた声を出してしまう。
「すぐ見抜いていたぞ。『あの子、なっちゃんのこと大好きでしょ?』ってな。
ま、お前が毎日のようにあんな風に全身で正野が好きだって出していれば誰だって気が付くが。」
「気が付かない人が約1名いましたが。」
「正野本人だろ?」
大木さんはガハハと豪快に笑った。
「僕が行動に移さないとまったくわからなかったみたいです。
今だって本当にわかってるのか疑わしい。」
僕は強引にマンションに連れて行った日を思い出していた。
「だろうな。
鈍感な正野にヘコまずにずっと接していただろ?
あんな風に空気が読めないくらいがなっちゃんには丁度良いって。望美が言ってた。」
「それって、ほめられてるんですかね?けなされてるようにも聞こえますが…」
「さぁな。」
と言って、大木さんはここへ来て何本目かのたばこに火を付けた。
「大木さんは僕の味方になってくれますか?」
「お前の味方なんかになるかよ、気色悪い!
ま、正野の味方にはなるけどな。望美も同じだと思うよ。」
「なら、僕の味方ですね。」
と言うと、大木さんはたばこの煙をふーっと吐きながら僕を見た。
一瞬間を置いてまた豪快に笑った。
「そういうところだな。望美がお前を買ってるのは。
お前が何を考えてるんだか、俺にはさっぱりわからないが。」
と言いながらも、大木さんはそれ以上、何も言わなかった。