きっかけは誕生日
1






 目覚めると朝だった。

 それはいいのよ。夜中に目覚めるよりはずっといい。

 いつも通り洗面所で歯磨きと洗顔を終わらせて、シャワーを浴びて汗を流す。
 髪をドライヤーで乾かしながら、窓から見えるいいお天気に目を細めた。

 今日は誕生日。私の30回目の誕生日。

 誕生日くらい特別でもいいと思って20年。

 それでも10歳くらいまでは、母さんが誕生日会を開いてくれていた。

 開いてくれたけれど、どうやら自分の娘にはあまり仲の良い友達がいないらしい……そう気づいてからは、内輪で、家族だけで祝うようになった。

 ……もう、お祝いはいいな。

 鏡を見ながらつくづく思う。

 どこにでもある平凡な顔。

 基礎化粧品は必要最低限。化粧水と乳液と化粧下地の三種類。
 ファンデーションはコンビニの一番安いやつ。
 リップは色が微かにつく程度の薬用リップ。
 眉は多少整えているけれど、そのまんま。

 美女だったら、多少は人生違ったかしら。
 頭を振りながら、部屋に戻って仕事に行く用意をする。

 どちらにしろ、平凡な家庭の平凡な両親から生まれた娘が、いきなり美女になったら怖いと思う。
 誰の子供だって事になってしまう。

 余計な家庭崩壊の火種になるなら、平凡に生まれてきて良かったと思うよ。

 いや、それは本当。

 そりゃ、巷に蔓延している恋愛小説の様なシンデレラストーリーに憧れがない訳じゃない。

 でも、いつか誰かが……なんて、夢のような出来事が無いことは知っている。

 だから、高望みしている訳じゃない。

 ないけれど……

 鏡に映った自分の姿に愕然とした。

 図書館司書という仕事柄、落ち着いた色合いのタイトスカートは、動きやすさ重視だから少し野暮ったいくらいにゆるゆる。
 気がつけば伸びていた髪は、単にひとくくりで三つ編み。
 決まって装飾品は落とすから着けない。着けるのは腕時計のみ。
 流行り廃りがないからと、買った白いブラウスは、高校時代の制服シャツによく似ていた。
< 1 / 28 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop