きっかけは誕生日
 そんなことを言い合いながら、受付カウンターに向かう。

 郊外に近い区立の図書館。

 利用する人のほとんどは近所の中高生ばかりだけれど、そこそこの規模と蔵書数を誇っている。

 今日は館長が休みなので主任の朝礼が始まり、それが終わると、各自それぞれの当番のために散り散りになっていく。

 私は私で、昨日の夜間ポストに返却された本の整理を始めた。

「小柳さん。この本の装丁、少し痛んでいるんだけど……直せるかな?」

 顔を上げると、同僚の久住さんが困ったような顔をして立っている。

 見ると、本のハートカバーが破れて少し無惨な感じになっていた。

「また派手に……」

「小学生の子達がね……昨日、少しやりあっちゃってね」

 引っ張りあいでもしたのかな?

 受け取って、本を確認しながら頷く。

 ページは破れていない。カバー部分だけがブラブラしちゃっているけれど……

「どうせ久住さんの事だから、大丈夫って安請け合いしたんでしょう」

「いや。しっかり注意もしたよ。図書館では騒いじゃいけないって」

 笑いながら威張る久住さんに苦笑を返す。

 久住さん優しいから、さぞかし迫力なかっただろうな。
 
「これくらいなら大丈夫です。直せますよ」

「お願いします。ところで小柳さん」

 まだ何か?

「今日はとても綺麗だね。何か良いことがあった?」

「…………」

 ニコニコと微笑む久住さん。

 今、綺麗だね……って、言われた?

 綺麗だねって言ったよね?

 耳がおかしくなった訳じゃないよね?

 おかしく……

 顔を真っ赤にすると、久住さんが目を丸くした。

「え。あれ……えーと」

「久住さんて、けっこう気障な事を言うんですね」

「あー……気障だったかな? でも小柳さんって、そんな可愛い反応する人だとは思ってもみなかった」

「言われ慣れていないんです」

 ブツブツ言いながら、手に持った本を置いた。
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