きっかけは誕生日
「まぁ、でもあんだけ喜ばれたら、作り甲斐があるよね」

「……え?」

 作ったとか言ったのかな?

「金井さんがケーキ作ってるの?」

「まあ」

「どうしてケーキ屋さんにならなかったの?」

「うん? コーヒーの方が好きだから」

「……ん?」

「はい?」

「ここって、金井さんのお店なの?」

 それはそれは残念そうな顔をされたら、どうすれば良いのでしょう。

「俺……の店です。知らないで通ってくれていた訳じゃないよね?」

 どこか胡散臭い、爽やかな笑顔が見えた。

「え……あー……あはは」

 こんな時は笑って誤魔化そう。

 実はいつもいるおじさん……塚原さんが、マスターなんだろうな……とか、薄々思っていましたとも。

「若いのに、自分のお店とか、すごいですね」

「もともと祖母の土地だったんで。それに、ちょうど貯金もあったし……いわゆる脱サラってやつ? しかもたいして若くないんじゃないかな。今は俺は36だよ?」

 36歳でお店のオーナーは、すごいんじゃないかな。

 今の私の貯金じゃ、金井さんのように何かお店を建てようにも、たぶん作れてプレハブ小屋が建つくらい。

 さすがにプレハブ小屋じゃ、なにもできないと言うか……

「大丈夫だったらケーキ、一口サイズじゃなくて、そのまま出しますか?」

「え……いえいえ。十分です、ありがとうございます」

 ケーキを口に入れ、ゆっくりと口に広がる、ほろ苦くて甘いチョコレートにニッコリする。

 甘いだけのチョコレートは好きじゃない。

 どこかほろ苦くて、深みのあるチョコレートの味が好きだ。

 それにふわふわのスポンジと、微かにリキュールのお酒の風味。

「ケーキ屋さんだったら、毎日買って帰りそう」

「そこまで本格的じゃないよ。よくてホームメイドが売りの、単なる喫茶店のケーキ」

「またまたぁ」

 笑いながら手を振った。

「でも金井さんって無口だと思っていましたけど、けっこう話してくれるんですね」

「お互い様でしょう。いつも塚原さんと話している時は、言葉少ないのに」

「……だって、塚原さん……口が挟みにくい……」

「それもお互い様ですね。俺がこんなだから、塚原さんは頑張ってくれるワケですが……」

 お互い顔を見合わせて、それからお互いに苦笑を返した。
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