きっかけは誕生日
 図書館司書は売れ残りやすい。そんな噂は信じない。信じないと言うより信じたくない、

 白髪が生えて、老眼鏡をかけるようになって、それでも図書館で働いている私。

 家に帰ると猫がいて、その猫を撫でながら、一人寂しく余生を……

 そんな想像が頭をよぎって首を振った。

 これじゃダメよ。

 絶対にダメだわ。

  さすがにいくつまで生きるか解らないけれど、現在の女性の平均寿命は80歳以上。

 今ですらそうなんだから、もっと未来はもっと延びるかもしれない。

 そんな長い間、一人で寂しくなんて絶対に嫌。

 でもね。30歳で一度も異性と付き合ったこともない。

 そんな女は今時いないでしょう?

 いるかもしれないけど。

 逆に“男は面倒よ”なんて、かっこよく言いながら、キャリアを着実に積んでいる人も中にはいるかもしれないけど……

 それとこれとじゃ雲泥の差だわ。

 差がありすぎる。

 ベットに顔を埋めていたら、ノックもなく、部屋のドアが開いた。

 ……ノックも無しに入ってこられる私って。

「ユウちゃん。朝ごはんできているわよ。どうしたの?」

 そう言って首を傾げたのはママ。

「……うん」

「あらあら。どうしたの。この世の終わりみたいな顔をして」

 そんな顔をしたつもりは無いけれど、心境的にはそれに近い。

「今日は誕生日じゃない?」

「誕生日ね。夕飯は何時に帰ってくる? いつもの駅前のケーキでいい?」

 言われた瞬間、惨めさがどっと押し寄せた。
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