きっかけは誕生日
3
*****
「お待たせしました」
カフェの戸締まりを確認して、金井さんが振り返る。
それを見上げて首を傾げた。
「あのぅ……」
「はい?」
「お昼ご飯の代金……」
「ああ。明日にして。レジ締めしたし、店閉めたし」
言うような気がしていたわ。
「じゃ。軽く何を食べたいですか?」
歩き出した彼の隣を歩き、何気なく首を傾げる。
「軽くていいんですか? 金井さんは夕飯になるんでしょう?」
「まぁ、そうですけど。小柳さんは家族とも食べるんでしょう? あまりガッツリだと悪いよ。割り込んでるのはこっちなんだし」
「ママには遅くなるって伝えました。そしたら、明日に回されましたから、ガッツリと夕飯にしましょう」
ママのメールは過激だったけど。
『あら? お泊まりしてくるの? じゃあ、ごちそうは明日にするわね』
って、今朝“一人”だと愚痴っていた娘が、急にお泊まりはないだろうとツッコミを入れたくなったけれど。
これは暗に“早く嫁に行け”とでも言われているようで、返事をするのをやめた。
「ああ……それは申し訳なかったかな。でも、行くところはそんなに遅くまでやっている訳じゃないし……」
考えるような金井さんに、これはいわゆるデートでは無いと認識した。
誕生日を期に服装に気を使い始めた女がいたから、たまたまそれが自分のお店の常連だから、だから知り合いの服屋さんを紹介してくれる。
ついでにご飯を食べて、お祝いしてくれようと思った。
ただきっとそれだけのこと。
でも、ちょっとおかしなこと。
だって、お店の常連とは言っても、私は金井さんと会話もろくにしたこともない。
いつも塚原さんが構ってくれるから、金井さんと話すと言えば注文をする時に一言か二言。
それだって、ほとんど塚原さんにするわけで。
金井さんの名前を知っていたのも、塚原さんが言っていたから覚えていただけで、自己紹介したと言うわけでもなくて……
「……服装とかお化粧って、モテ要素としては大切なんですね」
「……それはまた唐突ですね」
少し驚いたような顔をする金井さんに、今日はルーズに編み込んだ三つ編みを指でつまむ。
「や。同僚に初めて化粧してきたんですね、とか、カッコいいとか、突然綺麗だねって言われたり」
「……それは男?」
「前半は咲良ちゃんです」
金井さんは難しい顔をして、それから胸の前で腕を組んだ。
「まぁ、見た目が全てじゃないと思うけれど、きっかけにはなるかな」
「きっかけですか?」
「お待たせしました」
カフェの戸締まりを確認して、金井さんが振り返る。
それを見上げて首を傾げた。
「あのぅ……」
「はい?」
「お昼ご飯の代金……」
「ああ。明日にして。レジ締めしたし、店閉めたし」
言うような気がしていたわ。
「じゃ。軽く何を食べたいですか?」
歩き出した彼の隣を歩き、何気なく首を傾げる。
「軽くていいんですか? 金井さんは夕飯になるんでしょう?」
「まぁ、そうですけど。小柳さんは家族とも食べるんでしょう? あまりガッツリだと悪いよ。割り込んでるのはこっちなんだし」
「ママには遅くなるって伝えました。そしたら、明日に回されましたから、ガッツリと夕飯にしましょう」
ママのメールは過激だったけど。
『あら? お泊まりしてくるの? じゃあ、ごちそうは明日にするわね』
って、今朝“一人”だと愚痴っていた娘が、急にお泊まりはないだろうとツッコミを入れたくなったけれど。
これは暗に“早く嫁に行け”とでも言われているようで、返事をするのをやめた。
「ああ……それは申し訳なかったかな。でも、行くところはそんなに遅くまでやっている訳じゃないし……」
考えるような金井さんに、これはいわゆるデートでは無いと認識した。
誕生日を期に服装に気を使い始めた女がいたから、たまたまそれが自分のお店の常連だから、だから知り合いの服屋さんを紹介してくれる。
ついでにご飯を食べて、お祝いしてくれようと思った。
ただきっとそれだけのこと。
でも、ちょっとおかしなこと。
だって、お店の常連とは言っても、私は金井さんと会話もろくにしたこともない。
いつも塚原さんが構ってくれるから、金井さんと話すと言えば注文をする時に一言か二言。
それだって、ほとんど塚原さんにするわけで。
金井さんの名前を知っていたのも、塚原さんが言っていたから覚えていただけで、自己紹介したと言うわけでもなくて……
「……服装とかお化粧って、モテ要素としては大切なんですね」
「……それはまた唐突ですね」
少し驚いたような顔をする金井さんに、今日はルーズに編み込んだ三つ編みを指でつまむ。
「や。同僚に初めて化粧してきたんですね、とか、カッコいいとか、突然綺麗だねって言われたり」
「……それは男?」
「前半は咲良ちゃんです」
金井さんは難しい顔をして、それから胸の前で腕を組んだ。
「まぁ、見た目が全てじゃないと思うけれど、きっかけにはなるかな」
「きっかけですか?」