きっかけは誕生日
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「お待たせしました」

 カフェの戸締まりを確認して、金井さんが振り返る。

 それを見上げて首を傾げた。

「あのぅ……」

「はい?」

「お昼ご飯の代金……」

「ああ。明日にして。レジ締めしたし、店閉めたし」

 言うような気がしていたわ。

「じゃ。軽く何を食べたいですか?」

 歩き出した彼の隣を歩き、何気なく首を傾げる。

「軽くていいんですか? 金井さんは夕飯になるんでしょう?」

「まぁ、そうですけど。小柳さんは家族とも食べるんでしょう? あまりガッツリだと悪いよ。割り込んでるのはこっちなんだし」

「ママには遅くなるって伝えました。そしたら、明日に回されましたから、ガッツリと夕飯にしましょう」

 ママのメールは過激だったけど。

『あら? お泊まりしてくるの? じゃあ、ごちそうは明日にするわね』

 って、今朝“一人”だと愚痴っていた娘が、急にお泊まりはないだろうとツッコミを入れたくなったけれど。
 これは暗に“早く嫁に行け”とでも言われているようで、返事をするのをやめた。

「ああ……それは申し訳なかったかな。でも、行くところはそんなに遅くまでやっている訳じゃないし……」

 考えるような金井さんに、これはいわゆるデートでは無いと認識した。

 誕生日を期に服装に気を使い始めた女がいたから、たまたまそれが自分のお店の常連だから、だから知り合いの服屋さんを紹介してくれる。

 ついでにご飯を食べて、お祝いしてくれようと思った。

 ただきっとそれだけのこと。

 でも、ちょっとおかしなこと。

 だって、お店の常連とは言っても、私は金井さんと会話もろくにしたこともない。

 いつも塚原さんが構ってくれるから、金井さんと話すと言えば注文をする時に一言か二言。

 それだって、ほとんど塚原さんにするわけで。

 金井さんの名前を知っていたのも、塚原さんが言っていたから覚えていただけで、自己紹介したと言うわけでもなくて……

「……服装とかお化粧って、モテ要素としては大切なんですね」

「……それはまた唐突ですね」

 少し驚いたような顔をする金井さんに、今日はルーズに編み込んだ三つ編みを指でつまむ。

「や。同僚に初めて化粧してきたんですね、とか、カッコいいとか、突然綺麗だねって言われたり」

「……それは男?」

「前半は咲良ちゃんです」

 金井さんは難しい顔をして、それから胸の前で腕を組んだ。

「まぁ、見た目が全てじゃないと思うけれど、きっかけにはなるかな」

「きっかけですか?」
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