きっかけは誕生日
「金井さんって、そういう人なんだ」

「男なんてそんなものでしょ? 女性相手に想像も妄想もしない男は……いないとは言わないけど、かなり少ないだろうね」

「いえ。ワザワザ口に出す男の人は、かなり少数派だとは思います」

「あー……でも、それは……」

 言いかけた時に、店員さんが飲み物を持ってきた。

 私が頼んだワイン系のカクテルと、金井さんが頼んだレモンつきの外国製のビールの小瓶と……

 何故か赤いろうそくを灯された、小さなホールケーキと。

「ハッピーバースデーを歌いましょうか?」

「あ。そこまでのサービスはいいよ。朱音ちゃん」

 店員さんに苦笑して、金井さんは私の顔を覗き込む。

「案外、照れ屋みたいだから」

 暗い店内でも、解るでしょうよ。

 私だって、自分の顔が熱くなっているくらいは解る。

 しかも今は身体中が暑い。

 目の前のケーキを凝視しながら、額に手を当てた。

「か、金井さん……」

「うん?」

「私……これじゃ、完璧に勘違いしますよ?」

「うん。どうぞ?」

 言われて手を下ろすと、微笑んでいる金井さんをまじまじと見つめた。

「小柳さん、鈍いみたいだし。そう思ってもらった方がいいかな」

「……あの。その……」

「いつからか聞きたい?」

 レモンをビールの小瓶に落として、金井さんは足を組んだ。

「そうだなぁ。気がついたのは去年の夏くらいかな」

 去年の……夏?

「もともと存在感のある人だとは思っていたんだけど」

「わ、私が?」

「そう。貴女が」

 全然、そんな風には思いませんけれど。

「塚原さんに嫌な顔もせずに付き合ってくれるのって、実は小柳さんくらいだよ。かと思えば、きっぱり遮断して本を読んでいたり」

 話しかけられない隙を見つけたら、本を読んでいましたねー。

 塚原さん、本を読み始めたら声かけてこないし。

 でも、接点なんてそんなものでしょう?

「後は、咲良はおしゃべりだからね。色んな話をしてくれたよ」

 咲良ちゃん?
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