きっかけは誕生日
「カウンターでもいい?」

「全然大丈夫ですよ~」

 日本語を正しく使いなさい、と言いかけてやめた。

 最近は全然の使われ方も多種多様だし。私もたまに使うだろうし。気にしていたら始まらない。

「なんだ。今日はこぶつきか」

 金井さんがお水を出してくれながら、微かに微笑む。

 それに微笑み返したら、隣で咲良ちゃんが目を丸くした。

「え? 何……どういう事? 俊兄が女の人に微笑みかけるなんて……え?」

「……どういう意味?」

 さすがに咲良ちゃんの驚きようは尋常じゃない。

 金井さん、実は慣れたら結構笑うと思っていたんだけど。

 違うの?

「愛想笑いは塚原さんに任せてるからね。そこまで無愛想にもしてないつもりだけど……」

「何々。俊兄、もしかして先輩のことを好きなの? ダメだよ、先輩は最近、好きな人出来たみたいだし」

「え。ちょ……っ咲良ちゃん」

 慌てて止めたけど、金井さんは一瞬だけ目を丸くして、それからニヤリと笑って私を見た。

「そうなの? 好きになった?」

「え……いや、あのぅ」

「たまに意思表示してくれても、俺は全く問題ないよ」

「だから、そもそも……」

「え。ええ? 何ですか、先輩……俊兄が好きな相手なんですか?」

 横から咲良ちゃんが飛び込んできて、頭が混乱する。

「嫌いなら付き合いません!」

「それは解るけど」

 ……あっさり返ってきた返事にムッとした。

「サンドイッチセットをお願いします!」

「はいはい。いつものだね。咲良は?」

「私はオムライスがいい」

「了解」

 金井さんは奥に向かいかけ、それから無表情に咲良ちゃんを振り返る。

「そうだ。咲良」

「はい?」

「その人、お前の従姉妹にするつもりだから、仲良くしておけ」

 言うだけ言って、奥に消えていった。

「…………」

「…………」

 お互いに、彼が消えていった方角をぼんやりと眺める。

「先輩……」

「はい……?」

「何かあったら相談に乗りますね」

「……よろしくお願い致します」

 あの人は……

 なんて人だ……

 なんて爆弾残して行くのよ!

 頭を抱えたら、塚原さんの笑い声が聞こえた。















2015/7/13 fin
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