きっかけは誕生日
 だから、これ以上ボケた発言をする前に、にっこりと微笑んだ。

「おはようございます。仕事に行く途中です」

 言った瞬間、吹き出される。

 ……何か、おかしな事を言っただろうか?

 それでも、金井さんは笑いを堪えながらの微妙な顔をして、ペコリと頭を下げた。

「おはようございます。小柳さん」

「私……何か、おかしな事を言いましたか?」

「今はおかしな事は言ってませんよ。さっきは言っていましたが」

「忘れていただければ幸いです」

「解りました。まぁ、とりあえず……」

「はい?」

「今日のランチをうちで召し上がるのであれば、ケーキくらいはサービスしますよ」

「え。本当に?嬉しいです。あ、でも……」

 ママもケーキ買ってくるって言っていたし、さすがに食べないわけにもいかないしなぁ。

「カロリー取りすぎになりますかね」

「あ。彼氏にもケーキ買ってもらう感じですか?」

「いえ。ママがケーキ買ってくるって朝……」

 呟いて、パクンと口を閉じた。

 また、わざわざ言わなくても良いことを……

「ああ……」

 と言ったまま、無言になった金井さん。

 顔から火が出そうになって、ちょうど降りる駅のアナウンスが耳に飛び込んできた。

「降りなくちゃ」

「ああ。もう着いたんだ」

 降りる駅は同じだから、並ぶようにして電車を降りる。

 改札を出た瞬間、風が通りすぎてスカートを巻き上げた。

 慌ててそれを押さえると、金井さん
の面白そうな表情と出くわす。

「あ、え……と。慣れてなくて」

「そうみたいですね。いつも先生みたいな服装だから、最初は別人かなと思いました」

 先生……

 それはとてもお堅い印象を与える単語ですね。

 でも言えている。夏場は黒か茶のタイトスカートにブラウス。
 冬場はそれにカーディガンかジャケットにコートだわ。

 そうか……先生か。

 印象からそれは、出会いがなくても当然かな。

 ファッションから変えないと、私は出会いも無さそうだ。
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