きっかけは誕生日
 真剣な顔で人の身体を見ている咲良ちゃんを見ながら、ロッカーにバックをしまう。

「身体の線を出した方が、モテる?」

「出しすぎは逆です。身体目当ての男にモテます」

 それは嫌だな。

「身体の線は出さない方がいいのね」

「いいえ。せっかくそんなお宝もっているのに、多少は出さないともったいないです。でも、どうしたんですか? あ。好きな人が出来ましたか?」

 最近の若い子はズケズケとくるなぁ……

 まぁ、他の同僚は皆、私と似たり寄ったりだけど。

「好きな人……は、いないけど。いないから……変わらなくちゃと思って。もう若くないし」

 30歳だし……

「そうなんですか? 最近、彼氏いないんですか?」

 最近どころか、30年間彼氏はいないわよ。

 もう、いろいろとどうしようって感じだわよ。

「先輩はそういうの興味ないんだと思ってました。じゃ、せっかくなので……」

 咲良ちゃんが出してくれたのは雑誌だった。

 若者の向けの雑誌かと思いきや、どちらかと言うと大人女子系の雑誌。

 普段の咲良ちゃんと、どこか不似合いな雑誌。

「この間、館長に服装の事を指摘されまして。先輩も参考までに」

「ああ。なるほど。この間ホットパンツの時に言われたのね?」

「先輩も解っていたなら、教えてくださいよ~」

 ごめんね。どちらかと言うと、私は無言気質なんですよ。

「ありがとう。でも、いいの?」

「今日は倉庫係なんで、見てる暇ないですし。先輩は今日はカウンターでしょう?」

「さすがに仕事中は見ないわよ」

「え。じゃ、貸出し返却ない時に、何されてるんですか?」

「……文庫本を読んでるわね」

「同じじゃないですかー!」

「や。文庫本と雑誌じゃ、見た目が違うでしょう、見た目が」
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