君の花嫁~大学生編~
「僕もね、母を早くに亡くしたんだ。穏やかそうな顔をしている父もあれでも一応は国王だから、厳しくてね。兄たちも国のためとかいって、甘えさせてくれるようなタイプではなかったから、僕はいつも甘えたいのに甘えられなかった。リリーはうちの将軍の娘でね。将軍に付いてよく出入りしていたんだ」
幼馴染というやつだね。
と切なそうに微笑む。
「人に関心のない兄達とは違って、僕はリリーになついたんだ。僕はリリーが大好きだった。初恋だった」
でも。
そう言葉を切ってカインは黙る。
それからは言わなくてもわかった。
あまりにも似ている。伊織と境遇が似すぎている。
こんなことってあるのだろうか。
思わず伊織の手を握るが、その手は力なく冷たかった。
「伊織。僕は君の気持ちがよくわかる。手に取るようにわかるよ」
「……そうか」
「君の、恐れもわかる」
カインの台詞に、伊織は目線だけを向ける。
睨むでもなく、感情のない昔の眼だ。
「真琴を失うかもしれない恐れを抱いてる」
「わかっているなら、何も言うな」
感情の読み取れない声に、私の胸が苦しくなる。
伊織の感情が消えていくような気がした。