俺様主人の拾われペット





千夏の家出の理由に気づき
俺は黙ってその場で考えを巡らせた。


…もし本当にそうだとすれば







「……彼女は…渡せません。」

「---!!そんな…何故ですか?!」





俺の言葉に園長さんが目を見開く。



(……あの震え…。)



俺は先ほどの千夏の車内での足の震えを
思い出していた。

…彼女が帰りたがっているとは思えない。

むしろ帰ることを拒んでいる気がして
俺は引くことができなかった。






「本当は今一緒にここに連れてくる気でいたのですが…
彼女が、行けないと言ったのです。」

「………!」

「あの目は…確かに、何かを拒絶した目でした。」




園長さんは俺の言葉に
目を揺らがせた後
察したように、目を伏せた。





「…あの子は、引き取られることを嫌がっていました…。
私達も彼女の気持ちを分かっていたのですが…先約様のご意思に背くことができなかったのです…。」





そう言って視線を下に向け
しばらくしてから意を決した様に立ち上がり

デスクから紙とペンを持ってこちらに戻ってきた。



机の上に出された紙は…






「…引き取り、同意書…。」






俺はその紙を見てから
園長さんを見た。

そこには優しい笑みを浮かべている彼女がいて
俺はその表情に応えるように
静かにペンを持った。




そして書き終えてから印を押し
園長さんに提出する。





「…先約の方には私から話をしておきます。
……あの子を、千夏ちゃんをどうかよろしくお願いします…。」

「…はい。責任を持って私が引き取ります。ありがとうございました。」





そう言って一礼して
俺は立ち上がり荷物を持って部屋を出た。



そして施設を出て
車に戻ろうとした途中…




「………!」





ある男と入れ違いになり

俺は1度その男を振り返った。



俺のことに気づいていないのか
そのまま後ろ姿は振り返ることなく施設に入って行った。





…もしかして…





そう思いながら
俺は少し早足で車に戻った。






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