俺様主人の拾われペット
車を走らせて1時間---
目的地に到着して、車を止める。
車では千夏はずっと無言で
走る外の景色に目を向けていた。
「着いたぞ。降りろ。」
「あ、はい…。」
千夏は言われたとおり降りて
すぐに匂いで場所を察知する。
「仁美さん…ここって…!」
「あぁ、海だ。」
高速に乗って走らせて1時間。
割と近場で海に行けるもんだった。
車の駐車場からビーチが一望できて
千夏が身を乗り出しながら海を眺める。
「…綺麗……。」
千夏はそう呟き、目を離さずにずっと海を眺め続けた。
俺は近くの自販機で飲み物を買って
千夏の手が置いてある塀の上に置いておく。
(……確かに綺麗だな…。)
時間が朝だというのもあって
ビーチにはまだそんなに人がいない。
「…降りてみるか。」
「え、いいんですか?」
「当たり前だ。折角来たんだ、足だけでも浸かって来い。」
そう言って笑えば
千夏も先ほどの顔が嘘のように
満面の笑みを浮かべてビーチへつながる階段を降りていく。
俺も後ろからゆっくりついて行って
砂浜のところで千夏を見守る。
(…学校がある分そんな頻繁に海なんて来れねぇからな…。)
「千夏、こっち向け。」
「え?」
---------カシャッ
1枚だが
思い出として俺の携帯で写真を撮った。
千夏は
撮るなら言ってくださいよ!
と少し拗ねながらも
楽しそうに水遊びを再開する。
よくもまぁ足浸かるだけで
あんなにはしゃげるもんだな。
若いからか…。
って俺もそんな歳変わんねぇだろうが!
何で老いを感じてんだよ!
「…ま、元気付けになったなら良かったか…。」
ジャケットから煙草を取り出し
1本吸いながら千夏を見守る。
「…お前は笑っててくれよ、千夏。」
そう呟いた声は
千夏には聞こえていない。