俺様主人の拾われペット






車を走らせて1時間---

目的地に到着して、車を止める。

車では千夏はずっと無言で
走る外の景色に目を向けていた。






「着いたぞ。降りろ。」

「あ、はい…。」






千夏は言われたとおり降りて
すぐに匂いで場所を察知する。





「仁美さん…ここって…!」

「あぁ、海だ。」







高速に乗って走らせて1時間。

割と近場で海に行けるもんだった。



車の駐車場からビーチが一望できて
千夏が身を乗り出しながら海を眺める。






「…綺麗……。」






千夏はそう呟き、目を離さずにずっと海を眺め続けた。

俺は近くの自販機で飲み物を買って
千夏の手が置いてある塀の上に置いておく。




(……確かに綺麗だな…。)





時間が朝だというのもあって
ビーチにはまだそんなに人がいない。





「…降りてみるか。」

「え、いいんですか?」

「当たり前だ。折角来たんだ、足だけでも浸かって来い。」





そう言って笑えば
千夏も先ほどの顔が嘘のように
満面の笑みを浮かべてビーチへつながる階段を降りていく。


俺も後ろからゆっくりついて行って
砂浜のところで千夏を見守る。




(…学校がある分そんな頻繁に海なんて来れねぇからな…。)






「千夏、こっち向け。」

「え?」




---------カシャッ




1枚だが
思い出として俺の携帯で写真を撮った。

千夏は
撮るなら言ってくださいよ!
と少し拗ねながらも
楽しそうに水遊びを再開する。




よくもまぁ足浸かるだけで
あんなにはしゃげるもんだな。

若いからか…。





って俺もそんな歳変わんねぇだろうが!

何で老いを感じてんだよ!






「…ま、元気付けになったなら良かったか…。」





ジャケットから煙草を取り出し
1本吸いながら千夏を見守る。







「…お前は笑っててくれよ、千夏。」







そう呟いた声は
千夏には聞こえていない。






< 70 / 142 >

この作品をシェア

pagetop