サヨナラの向こう側
そして、花火大会当日。


夏休み終わりらしく、すごくいい天気。


カフェ・timeも、普段はやらない店先での販売の準備をしたり、いつもと違う雰囲気。



そんな中、私は、お昼の休憩で桃子さんに呼ばれた。


「美久ちゃん、私のなんだけど、これ着てみない?」


桃子さんが持っていたのは、紫の生地に大きな色とりどりの蝶が描かれた浴衣だった。


「うわあ、キレイ・・・」


「私が着付けするから、午後からこれ着て接客ね。


で、そのまま花火大会行ってきていいからね」


「え、でも汗かいちゃいますよ」


「いいの、近所のクリーニング屋さんに安くやってもらえるから」


「じゃあ、お言葉に甘えて」



「美久ちゃんが店先にいたら、お客さんたくさん来るね!」


「そんなことないですよー」



お昼を食べて、桃子さんに着付けしてもらい、店先に出てみると、見慣れない浴衣姿の男性の後ろ姿が見えた。


誰だろう、と思っていたら、その男性が振り向いて、


「おっ、馬子にも衣装だな」


と言った。



慶も浴衣を着てた。


身近な男性の浴衣姿を、初めて見た。


ちょっと、ドキドキしてる自分に気づいた。




「慶、意外と浴衣似合うね。


っていうか、お世辞でも褒めてよー。」



「嘘、ちょっと見とれてた」



そう言う慶の顔は、少し赤くなっていた。






< 103 / 270 >

この作品をシェア

pagetop