サヨナラの向こう側
改めて、美久の顔を見た。


小さい頃から変わってない、クルクルよく動く瞳。


俺が美久の身長を抜いてから、どんどん差が開いて、悔しそうにしてた美久。


でも、その小さな体も、手も、髪も、仕草も。


ぜんぶがいとおしく思えた。




そばにいるのは、当たり前なんかじゃないんだ。


好きだから、そばにいたいんだ。




想いをぶつけようとした、その時。


「美久、そろそろ帰るか」


慶先輩が、見透かしたようなタイミングで現れた。



「じゃ千広、また明日ね」


慣れた様子でバイクのメットを受け取る美久。



慶先輩は俺に近づき、小さな声で


「千広、また今度ゆっくり話そうな」


と言って、バイクにまたがった。




慶先輩の腰に手をまわし、しがみつく美久。


バイクは、あっという間に遠ざかっていく。


美久の家と違う方向へ。



どこかへ二人で行くってことか。


つきあってんだもんな。


バイトしてるから金銭的に余裕もあって、バイクでどこにでも連れていける慶先輩。


それに比べて、部活ばかりで金はないし、自転車しか乗れない俺。


「かなうわけないよな・・・」


どんなに好きでも、かなわない想いもある。


そんなことに、いまさら気づいた。





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