恋妃
一章 忘却の空は 晴れない…
…窓の外が、うるさい。
心地いい風が吹き抜ける窓辺の長椅子で、寝そべりながら。
なんとも言えない、優しい夢を見ていた。
なのに、それを破るかのような騒々しさが風に乗ってくる。
あれは、帰って来た兵士達を迎える歓声。喜びの声。
そして、行進する大勢の兵士たちの足音。
その足音は、あの日を思い出す。
俺の祖国が滅ぼされた日。
そして…。父上が亡くなったあの日を。


「かせー」
ぺたぺたと、裸足の足音が響いてソラが走って来る。
「かせー、外、お祭り」
窓の外を指差して。一生懸命に覚えたばかりの言葉を、俺に伝えようとする。
うたた寝をしていた長椅子から身を起こし、ソラの頭をなでてやる。
とても嬉しそうに笑う、ソラ。
こんな事で、喜ぶなんて。なんて安上がりなヤツなんだろう。
「そうだな、凱旋の祭りだ」
…何度目か、もう忘れた。勝利を祝う、この馬鹿げた祭りが行われるのは。
そして凱旋の波は、あの男を俺の元へと呼び込んでくる。
あの男。…黒騎王。
今頃、愛馬にまたがり。凱旋門からこの宮殿までを埋め尽くした、群集達から多くの祝福を浴びて。
にこやかに当然のように、手を振り。玉座へと座る。
そして今夜は。
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