恋妃
険しい道なき道を歩き(こんな手間食わせて。見つけたらぜってー、殺してやる。そう、新たに決意して)、ようやくのことで頂上に上りついた。
そこには、山をくりぬいて作ったような岩牢があり。
封印の札が、あたり一面に張られていた。
そして牢の中には。ソラがいた。
両足を抱えて、小さくなって。その瞳は半分閉じられていて。
小さな手足には、太い鎖と、鉄球。
こいつが、封印されていたのか?こんな子供が?
『……おい、俺のことずっと呼んでたのは、お前か?』
『―――――え?』
そういってヤツは顔をはじめて上げた。金色の大きな瞳が、更に見開かれる。
…間抜け面。素直にそう、思った。
『俺…、誰も呼んでねぇけど。――――あんた誰?』
『嘘だね、俺にはずっと聞こえてたぜ。うるせーんだよ、いい加減にしろ』
ヤツは瞬きもしないで、俺を見上げている。
あんまりにも間抜け面で、俺を見上げたもんだから。殴る気が失せた。
『…だから。連れてってやるよ。…仕方ねーから』
檻の隙間から、手を伸ばす。
その手に一瞬怯えたように、身体を振るわせた、ヤツ。
だが、おずおずと。自分の手を伸ばし。俺の手を握る。
すると、封印の鎖が外れ、岩牢そのものが、砂になって崩れていく。
こうしてコイツは、俺の元へやってきた。
神殿へと帰ると、多くの神官たちが『獣人を、聖なる神殿に入れるとは!』と、口々
に言ったが気にはしなかった。
ただ、父上の反応だけが恐かった。
父上に怒られたら、どうしよう。
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