恋妃
コイツを捨てて来いと言われたら。…どうしよう。
俺はコイツに,連れてってやると言ったんだ。だから、連れてきた。
だけど、だけど。
『華聖』
やさしい、父上の声。俺は少し怯えながら、振り向く。その俺の腰にしがみつく、やはり怯えた様子のサル。
『お帰りなさい、華聖』
『た、ただ今帰りました。遅くなってごめんなさい、父上』
『はい、お帰りなさい。どうしました?随分汚れてますね?』
…なんて、言おうか。父上に、コイツの事。
『なあ、華聖。この人が、華聖の言ってた父上?』
『サル!』
とめる暇なんか、なかった。サルはあっという間に父上の前にいて。父上を見上げていた、その黄金の瞳で。尻尾を小刻みに揺らしながら。
『…華聖も綺麗だけど、父上も綺麗だ…』
口を半開きにして、父上を見上げるサル。
『おやおや、嬉しいことを言ってくれる子ですねえ』
父上はそんなサルの頭をなでてやろうと手を伸ばした。するとサルは、最初怯えたように身をすくませて…。
『大丈夫ですよ』
そっと、頭をなでてやる。堅く閉ざされていた、サルの瞳がゆっくりと開いていき。
なでられる感触に、幸せそうに瞳が又閉ざされていく。
『すっげー、なんかきもちいい』
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