恋妃
…俺が生まれた国は、この世界唯一の宗教の頂点を擁する神殿がある…あった国だった。
俺はその国の、神殿の主。つまり神子である明聖神威の第一子として産まれた。

『神威』。

この特殊な名前を持つものは、世界にたった一人しかおらず。
俺が十三になるまでは、父だけがたった一人の『神威』だった。
『神威』とは、『神の座に近き者』。そして、『神の意(威)をあらわす者』。
天地開元の力を表す錫杖を持ち、額にある真紅の印を持つ者。神の力を、具現化できる力を持つ者と言われている。
実際、父上は旱魃地方で雨を降らせてみたり。暴れる地を、水を、雷を治めたりしたと聞く。
モチロン正式な神威でない俺にはそんな事は、できない。
そんな力があるからこそ。『神威』は一国が所有しない存在であったし、又そうでなければならなかった。
しかし。
5年前、黒騎王は俺の国を攻めた。有史始まって以来の出来事で。
神に仕える者しかいない、小さな平和な国であった祖国は簡単に、攻め滅ぼされてしまった。
…今でもあの時の事を、夢に見てしまう。
雨の夜、だった。
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