恋妃
とがった耳と、長い尻尾。黄金に輝く瞳。
人の姿をしていながらも、人ではなく。だが、決して獣でもない。
『華聖…、もっと…たべ…た…い』
ソラの寝言。話せる獣など、いない。
『華聖、いけません。そんな事を言っては』
めずらしく、少し怒ったような声で父上が言う。俺は怯えてしまう。
父上に嫌われたら、どうしよう…。
『確かにソラは獣人です。しかし、人でもあるのですよ ? それに貴女が拾ってきた子でしょう?だから自分で責任持ちましょうね?』
そう言って、俺の頭をなでてくれる、父上。その優しい、いつものまなざしが大好きで。思わずつられて微笑んでしまう。
『しかし、不思議ですねえ』
『何がです?父上』
『貴女とソラの出会ったきっかけですよ』
確かに普通の出会いじゃなかった。だけど。
『…だけど。真実です』
『勿論、嘘だなんて思ってないですよ?ただ、不思議だなあっと思って』
俺だって、未だに信じられない。
ただ、声がしたんだ。
俺を呼ぶ声。
俺の名前を呼んだりしていなかったけど。
だけど、『俺』を呼んでいたんだ。
あんまりうるせーから、そいつの顔を見てやろうと(一発殴ってやろうと)思って、探していて。
いつの間にか、『禁断の地』である山にはいってしまった。
岩をただ積み上げたような、山。しかしそこに一歩はいると。
…そいつの気配が強まった。
…ここにいる。
確信した俺は、進んでいく。『禁断の地』だという事も忘れて。

< 9 / 12 >

この作品をシェア

pagetop