恋愛症候群
徹也は週に一度、
会社のひとたちと飲みに来てくれた
その度に私は徹也に付いて
いろんな話をした
他のお客さんもいるから
長く付ける時は少なかったけど
それでも徹也と話してる時は楽しくて
もっと話したいって思うようになった
知り合って2ヶ月くらいのとき
その日は徹也たちの会社のひとたちしか
お店にいなかった
だから私はずっと徹也に付いていた
「俺ね、ずっと根暗だったんだ」
突然そう言って、
昔のことを教えてくれた
徹也は小学生のときは明るくて
誰にでも好かれる少年だった
だけど中学に上がって、
一部の人間が持つ、羨ましさからの妬みで
いじめに合うようになる
「辛い思いをするくらいなら、
誰とも関わらないほうがいいって
そう思ったんだ」
いつしか人と関わることを避けて
ひとりでいるようになった
そのまま中学を卒業して
地元から少し離れた高校に進学した
誰も昔の自分を知らない
何の偏見も無くて、自由に出来る場所
だけど自分の中に残っている記憶
それは消えてなくて
ひとと関わることは苦手だった
それでも、中学時代とは違う環境
向こうから話しかけてきてくれて
数人の友達も出来た
楽しくて充実した毎日
ゆったりとした時間が流れていた
「徹也、音楽って興味ある?」
ある日友達に言われた一言
「あの頃はさ、ギター弾けたらモテる、
って言われてて
バンドがめちゃくちゃ流行ったんだよ
ひとと関わるのは苦手だったけど
俺も思春期だったからさ
彼女は欲しかったんだよね」
単純でしょ?なんて言いながら、
徹也は笑って、話を続けてくれた
全く知らない音楽の世界
友達が貸してくれたインディーズバンドの
1枚のCDを聞いた時に衝撃を受けた
テレビやラジオで耳にする音楽とは違う
生々しい、心の本音が語られる歌詞
加工されてない、ギターやベースの音
叫ぶような歌声
「すげー衝撃的でさ
俺が全く知らない、こんな面白くて
カッコいい世界があるんだって思った」
それから徹也はあっという間に
音楽に嵌まっていった
友達とバンドを組んで、
ギターを教えてもらって
毎日毎日、学校が終わると皆で集まって
遅くまで練習していた
「今の俺を作ってくれたのは
あの頃聞いてた音楽なんだ」
いろんなミュージシャンの曲を聞いた
今流行りのバンドの曲から
自分よりも上の世代の曲まで
邦楽だけじゃなくて、洋楽も聞いた
昔からある古いレコード屋に
バンド仲間達と何時間も入り浸って
レコードを聞かせてもらうこともあった
モテたい、っていう単純な考えから
いつしか自分達の音を作っていく事に
皆で楽しさを覚えてのめり込んでいった
そのうち自然と彼女も出来て
毎日充実した学校生活を過ごした