Longing Love ~あなたに恋して、憧れて ~
高城君が、車を止めた。


「多分、この辺…」

高城君は、祖父が住んでた家の手前で
車を停めた。


「ちょっと待ってて」


祖父母と暮らした家。


今は両親が、アパートを引き払って
この家に越してきている。


家に通じる道に立ってすぐに、
荒れた庭が見えた。


夏の終わりに延び放題になった雑草が、
そのまま冬を越している。


きちんと手入れされた家は、
どこかに消えもともとなかった荷物が
玄関にうず高く積まれている。


たった1年なのに。


主を失った家は、祖父母の幻と一緒に
どこかへ消えてしまった。


これで、もう、私には、
帰る場所はもうどこにもない。


「大丈夫か?」


高城君が、声をかけてきた。


私は、きちんと答えられず、
うめき声みたいな声しか、出て来なかった。


私は、考えて見た。


祖父の言う通り、
地元に残って居れば、
居場所が無くなるなんて事態に
ならなかったかも知れない。


大切な祖父母との思い出を
壊す真似なんかしなくて
済んだかも知れない。


「ここが、春妃の家?」


「うん。でも、そうだったって
言うべきかも知れない」


人とともに、故郷も無くなる。
どこかに封印していた、思いが弾けた。

祖父を失った事が現実となって、
私の目の前に現れた。

ずっと、目をそらして来た、
現実に向き合わなければいけない。

荒れた家屋にそう、教えられた。

私を理解して、大切にしてくれた人は、
もうどこにも居ない。


本当に、それが現実なんだ…


私は、祖父を無くしてから、
初めて声を出して泣いた。



「おい、いったい、どうしたの?
春妃?大丈夫か?」



高城君の腕の力強さ、
胸に抱かれた暖かさが見に染みた。


それだけでも、希望が持てた。
特別なもの…
私には、まだ、それがある。

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