Longing Love ~あなたに恋して、憧れて ~


十年前、多分このベンチだった。
偶然、同じ店で友達と飲んでるのに遭遇した。
知り合い同士で合流して、
私が、酔いつぶれてたナオのを介抱した。

あの時は、帰るに帰れなくなって、
仕方なく世話を焼いた。
それまで、しばらくナオと話すのは、気まずかったから。

『ねえ、高城君?』


『何?』
彼はうつむいたまま、
顔を上げる気力も無かった。


『夜の海ってさ、他の人は、
きらびやかな、
ネオンの方を見に来るでしょ?
でも、私、真っ黒な海面のほうに
惹かれるんだよね』


『何でだよ』

聞いてないと思った、高城君が、
そんな事に反応したから、面白いと思った。

『だって、ネオンなんて、
何の不思議さも無いもの。

けど、海は違う。
昼間はあんなに美しいのに、
夜になると、何でも光を吸収して、
すべてを飲み込むって、
すごく不気味だって思って』



『お前、変なやつだな』


『そうだね』


『じゃ、何でわざわざ不気味だって
思うもの見たいと思うんだよ』


『どうしてかな。
何も見えないって、
いいことだなって思うから』


『分けわかんないよ、それ』



深夜、ここに座って、
とりとめのない話をした。
相手が聞いてないと思うと、すらすら言葉が出てくる。


ナオが実家に来てくれてから、
気まずくなって、挨拶も出来なくなっていた時期だった。
あの時、朱音とうまく行かなくなったんだ。


この日から、高城君のこと、
ナオと呼んで、親しくなった。


『お前、まだあの魚男と付き合ってるのか?』


『どうして、そんな簡単に別れるのよ』

『男なんて、いくらでもいるのに』

「私は、ナオと違うから』


あの頃は、また、ナオと話せるだけで、
楽しかった。


でも、それが揺らいでいて、
下手をすれば、跡かたもなくなるかもしれない。
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