Longing Love ~あなたに恋して、憧れて ~
春妃の声は、姿が見える前に
すんなり耳に入って来る。

声でさえ聞きたくて、待ち望んでいたのだ。


部屋に入ってきた春妃は、
普段と変わりなく見えた。


声は沈んだ風でもないし、
顔色も悪くは無かった。


春妃の顔を見て、
すぐに両手を広げて、
春が飛び込んでくるのを
待ちたかったけど、
春妃に歓迎されなかったら?



という思いが頭をよぎって、
腕を差し出す勇気が出なかった。

耐えられなくて、俺は、
「やあ」と大人しく挨拶するのに留めた。


春の返事も、同じような反応で、
特別、俺に会えて、
嬉しいなんて顔は、見せてくれなかった。


ぎこちない二人の背中を押して、
朱音は、
ディナーのセッティングがしてある、
キッチンのテーブルに、俺達を座らせた。

俺は、
「お酒があったほうがいいな」
と言って、ワインを取ってきた。


朱音は、俺に、コルクを抜けと
命令しているうちに、
自分で作った料理を
テーブル一杯に並べていた。


春の好きなものばかりだ。


このところ、朱音は、
メニューのことばかり、
頭に浮かんで夜中にまで
俺んとこに電話をかけてきた。


「うわーっ、このビーフシチュー
どのくらい煮込んだの?」
春の一言で、
緊張していた朱音の顔が緩んだ。


「いくらでも食べて、いくらでも飲んで」

空いた皿を除けて、
口に付いたシチューをぬぐう。

春の世話を、
嬉しそうにする朱音の姿が痛々しくて
シチューをお代わりするとき、
俺がやろうかと手を差し伸べた。


「もういいよ、朱音。余計なこと言うなよ」
たまらず声をかけた。

「いいから、お代わりくらいしなさいよ」



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