Longing Love ~あなたに恋して、憧れて ~
多分、彼はこういう店には、
私としか来ないし、
久しぶりで、何を注文しようか、迷うのだ。
普段、彼が行くような、レストランで、
注文するメインディッシュ一皿分の代金で、
この店の料理もお酒も、
食べきれないほど注文できてしまう。
本当に。
お姉さん、お品書きの右から全部、
持ってきてと、
胃袋が許す限り、食べつくしても、
ナオが心配するほどの金額には、
到底達しない。
ナオが持ってる、
プラチナだかブラックだか、
特別なカードは、
この店で、使えるかどうかわからないけど。
女性なら、
うっとりしてしまうナオの顔に、
視線を釘付けにされて、
居酒屋のお姉さんは、
まだ、注文の続きを待っている。
「とりあえず、それだけで」
私は、ありがと、
と付け足してナオのほうに向き合う。
今ので、私達の関係は、
単なる友達にすぎないって、
バレただろうな。
別に、その通りだからいいけど。
「そういえば、春?
さっきの女の子と知り合いだった?」
「いいえ」
その女の子とは、
駅でナオを待っていた時に、
隣に立っていた女の子だ。
二十歳くらいの、
ちょっと人目を引く、きれいな子だった。
待ち合わせ場所に、
ナオがやって来て、私に手を振った時、
女の子は、
自分に手を振ってくれたものと、
勘違いしてしまった。
多分、彼女は、私が見えてなかったと思う。
私、気配を察知されないようにするのは、
得意だから。
「ごめん、待たせた」
紛らわしいことに、
ナオは、私と彼女の、
微妙な位置で声をかけたから、
隣の女の子は、
自分に会いに来たのかと、
錯覚して、私が出て行く前に、
一歩前に出てしまった。
ええっ?
何で君、君は誰?と、
ナオが戸惑った顔をした。
それでもナオは、その女の子に、
恥をかかせないように、どうも、
と挨拶して、笑いかける。
滅多にお目にかかれない、いい男が、
自分の横をすり抜けて、
隣に立っている平凡な女の下に、
嬉しそうに駆け寄り、
肩をぽんと叩くのを見て、
彼女は、
死ぬほど恥ずかしそうな顔になった。
そして、恨めしそうに私を睨み付ける。
彼女の心の声が聞こえてくるようだ。
”何?この女、存在感薄いから、
私に会いに来たと思ったじゃないの!!”と。
彼女は、私達が立ち去るまで、
ずっとナオのことを見つめていた。
ナオと居るとこんなの、日常茶飯事だ。
ナオを見たときの、
反応はそれぞれだけど、
多くの女の子は、
彼と目があって、
弾かれたように驚いて、
これが、運命の出会い
じゃないかと錯覚する。
けど、しばらく彼を監察していると、
そんな風に彼を見つめてる女の子は、
1人じゃないと気がつくのに。
彼の周りには、まったく同じことが、
1日に何度も起こるのだ。
彼の存在はたった一人なのに、
彼を運命の人だと、
錯覚させられるひとは、
1日に何人も現れる。
だから、彼の側にいる秘訣は、
彼のことを運命の人だなんて、
絶対に思わないことだ。