Longing Love ～あなたに恋して、憧れて ～

反対に私はというと、
よくここまで、無事に育ってきたのか
という環境で、
自分の才覚と勘だけで世の中を渡ってきた。


外見については、比べるまでもなく、
ナオはどこに行っても人目を引くのに、、
私ときたら、
ナオの影のようにひっそりと隣にいる。

ナオは、店に入ってすぐ、
優雅に背広の上着を脱ぎ、
焼き物の匂いがつかないように、
シャツだけになっている。


イタリアの生地の上質なやつ、
時どき、シャツに触れる振りをして
ナオの腕に触ってみたくなる。


だから、ナオが、学生の頃に比べて、
体つきが、しっかりしていることとか、
余計なことに気づいてしまう。


その上、ナオは、
家で厳しくしつけられてるから、
やたら姿勢がいいし、動作もスムーズだ。


自分の家庭環境に、
信頼を置いていなかった私は、
どこに行っても、ナオの後ろにいて、
勝手に、ナオの振る舞いをお手本にしていた。

ナオのお陰だ、お里が知れる、
常識がない、と笑われなくなったのは。


こうして、時々、私なんかに
向けてくれる笑顔まで完璧だ。


こういう男とつりあうって、
どういう女性だろう。


美人で知的で、余裕があって…

もし、私のかわりに、
そういう女性が座っていたら、


ナオも、じろじろ見られたり、
思わせぶりな笑みを、
いきなり振り向けられたり
しないんだろうなと思う。


隣にいる女が、恋人じゃないから、
通りがかりの人も、
遠慮なく見とれてしまうのだ。


もし、

ナオの容姿が普通で、
私といても違和感がないなら、
私達の関係は、もっと違ったもの
だったかもしれない。


もし、ナオの容姿がぱっとしなかったら？


何の躊躇もなく、
10年もずっと抱えてきた、
古傷のような感情を
ナオに打ち明けようかな…



ナオがぱっとしない？


ぱっとしないナオなんて…
人並みの顔に、寝癖のついたままの髪…
それもいいけど、
そんなことは、あり得ないか。



考えるだけ無駄。
でも、
寝癖のナオは、ちょっと見たいかも…
でも、少しの間の暇潰しになる。

私は、一人で含み笑いをしたみたいになった。



「さっきから、何を一人で笑ってる？」


ナオが、私だけに視線を注いでいる
のに気づいていた。

そしてナオは、私と目が合うと、
ゆっくり笑いかけてくる。


「ごめん、ちょっと思い出してたの」


私は、幸せな気分に包まれる。