イジワル上司と秘密恋愛

「このワガママ娘。どれだけ愛してやれば素直になるんだよ」

「……離して」

「駄目だ。二度と他の男とキスなんかしないって約束するまで、今夜は抱き続ける」

「大っきらい……」

「知ってる。聞き飽きた」


そう言って綾部さんは私の口をキスで塞ぐ。

数分前に木下くんと重ねても何も感じなかった唇は、綾部さんのキスを受けとめた瞬間、即効性の媚薬のように甘く熱く私の全身に火を灯す。


恋と情欲を前にしたら、理性なんて形ばかりの砂の城みたいだと思った。

どんなに立派でしっかり作ったように見えても、水をかければ一瞬で崩れてしまうのだから。わずかな波に、跡形もなく流されてしまうのだから。


「……だめ。私、もう、木下くんと付き合——」

それでも自分の決意を立て直すように改めて口にすれば。

「あっ……!やっ、あ……んっ」

「その名前も、聞きたくない」

マンションの外通路だというのに、嬌声を零さずにはいられないところを乱暴に指で触れられ、言葉は強制的に遮られた。
 
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