イジワル上司と秘密恋愛
「ああ、もちろん連れてくよ。あいつは家族みたいなもんだからな」
まるでのろけるように目元を緩ませ、なんの躊躇もない笑顔を浮かべた綾部さんに、私は吐き気にも似た怒りを覚えた。
——気が付くと、私の手は彼に向かって枕を投げつけていた。
「志乃?」
肩にぶつけられた枕を目で追ってから、綾部さんは純粋な疑問を浮かべた表情でこちらを見る。
『何をするんだ』、そんな質問を浮かべた表情に、私はきつく睨みつけて答えを返してやる。
「最低……! 馬鹿にしないで! もう、いい加減にしてよ!」
「志乃?」
「大っきらい! 綾部さんなんか! 私、絶対関西なんかに行かない! あなたなんかに付いていかない! 馬鹿にしないで!」
「志乃、落ち着け!」
悔し涙を滲ませながら、手元のティッシュやタオルをがむしゃらに投げつける私に、綾部さんは険しい顔をして近付き強く腕を掴みあげた。
「落ち着け、どうしたんだよ急に」
綾部さんは私の腕を押さえると、そのまま拘束するように全身で抱きしめる。
いつものムスクの香りがする彼のワイシャツ。その胸板を拳で叩きながら、なおも私は責める言葉を吐き出した。