イジワル上司と秘密恋愛
「綾部さんなんか、全然私を好きじゃないくせに……私のことなんか遊びのくせに……勝手なことばかり言わないで!」
「なんでそんなこと言うんだよ。俺は志乃が好きだよ、何度も言ってるだろ?」
「うそ! だったらどうして……あの日、抱いたんですか……。私、初めてだったのに。酔っ払ってて全然意識なかったのに、全部、全部奪って……どうしてあんな酷いことが出来たんですか……!?」
「志乃……」
呼び掛けた綾部さんの声色が変わったことに、私は気がつかないまま訴え続ける。
「こんな恋したくなかった! 綾部さんなんか好きになりたくなかった! ちゃんと……ささやかでいいから、純粋で、まっすぐな恋がしたかった……! きちんと私を愛してくれる人に、身体も心も捧げたかったのに……」
全てをぶちまけたら、涙が止まらなくなってしまった。
ボロボロと泣き続ける私を、綾部さんは抱きしめていた腕を解き身体を離す。
そして、落ち着きを通り越した冷たい声色で話し出した。
「志乃の気持ち、よく分かったよ。今まで悪かったね」
怜悧な光を宿した瞳が一瞬私を見下ろし、すぐに背を向けて逸らされた。そして——。
「お前の望み通り別れよう。もうここにも来ない」
サックスブルーのワイシャツの背中が、私を冷たく突き放した。