イジワル上司と秘密恋愛

週末は初めて木下くんとデートした。

彼の車でドライブをして、フレンチレストランで食事をご馳走してくれて、そして。

「今日……俺の部屋泊まるよな?」

普通の恋人らしく、夜は彼の部屋へ誘われた。

——そういえば……綾部さんはいつもうちに来るばかりで、1度も部屋に招いてくれなかったな。……当たり前か、“マリ”さんと鉢合わせる可能性があるものね。

そんなことを頭の片隅で考えながら、私は木下くんに向かって小さく首を横に振る。

「ごめんなさい……今日、体調が……」

それは決してウソではなく、偶然にも前日から身体が泊まれない状態になってしまったのだけど。

「あー……そうなんだ。じゃあ、仕方ないよな」

木下くんのガッカリした顔を見ていると、なんだか彼に抱かれたくなくて身体が意地悪をしているような気がする。

そして別れ際に木下くんは「おやすみ」の優しいキスをくれたけど、やっぱり私の胸は波風の起たない水面みたいで——

——翌々日の月曜部、朝礼で正式に発表された綾部さんの異動の話の方が、よっぽど心をしめつけた。

 
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