イジワル上司と秘密恋愛

正式な辞令が出されると、綾部さんが本当に遠くへ行ってしまうんだという実感が強くなる。

ようやくけじめをつけたはずの気持ちが、私に何度も何度も『本当にこのままでいいの?』と問い掛けてやまない。

綾部さんが関西勤務になるのは十月一日から。けれど向こうでの準備などもあって、実質ここに出勤してくるのは一週間前までだ。

最後のその日がくるまで、私はなるべく綾部さんの顔を見ないように過ごした。

彼と目を合わせたり、仕事上とはいえ言葉を交わすことが、どんどんつらくなっていく。


『本当にこのままお別れでいいの?』

——だって、仕方ないじゃない。私は彼の本当の恋人じゃないんだもの。


何度も何度も繰り返す自問自答。

綾部さんを追いかけたって、私に最後に残るのは虚しさだけだって分かってる。

それに、いくら本心だったとはいえ酷い言い方をしたと、今さらになって罪悪感も感じていた。

例え本当の恋人じゃなかったとしても、彼を心から好きで幸せだと思える時間だってあったのに……せめて、ありがとうぐらい言えれば良かった。


後ろ髪を引かれる想いをいくつも抱えながらなんの進展もないまま——ついにその日はやって来た。

 
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