イジワル上司と秘密恋愛
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終業後、企画マーケティング課による綾部さんの送迎会が会社の近くのビストロを貸しきって行われた。
店内は明るくてアットホームな雰囲気だったけど、カウンター席だけは少しライトダウンしていて、綾部さんとよく行ったダイニングバーの雰囲気に似ている気がした。
乾杯から二時間が経ち宴もたけわなだというのに、私は座席の隅っこでワインボトルとメニューの並ぶカウンター席をどこか懐かしいものを見るようにボンヤリと眺めてしまう。
すると。
「ここのカウンター席、あの店に似てるよな」
「えっ……」
輪の中心にいたはずの綾部さんがいつの間にか抜け出して、私の隣へ腰掛けてきた。
驚いて目を瞠ってしまった私に、綾部さんは切れ長の三白眼をふっと優しく細めて笑う。
「さっきからボーっとして、大丈夫か?」
「……大丈夫です」
……イジワル。最後の最後でこんな風に優しくしてくれるなんて。
まるで、私がうっかり泣いてしまいそうなのを見透かされているようで、悔しくて、けれどそれでも嬉しくて。息が苦しいくらい胸が締め付けられる。