イジワル上司と秘密恋愛
「素直になれるような恋をさせてやれなくてゴメンな。これを教訓にして、関西行ったらもっとイイ男になるように努力するよ」
綾部さんは小さく、けれど明るい声でそう言うと、最後に私の方を向いてニッコリと微笑んでから席を立った。
「……綾部さ……」
涙が出そうで上手く発せないで呼び掛けた声は、ざわめきに掻き消されて届かない。
ライトブルーのワイシャツの背中がみんなの輪に戻っていくのを、私は涙の膜が貼って滲んだ視界で眺めていた。
***
会社へ行ってももう綾部さんはいない。
見慣れたはずのデスクが少しだけ風貌を変え、新しい課長代理が座っている光景は、なかなか私の日常には馴染まなかった。
さらに深くなった喪失感。それと共に痛いほど感じる、私がどれだけ綾部さんのことを好きだったのか。