イジワル上司と秘密恋愛
あまりに驚いてしまった私の反応は怪しいものだったけれど、それは綾部さんに好意を抱いていた他の女子社員たちも同じだったようなので、幸い目立たずに済んだ。
「え!? “マリ”って、綾部さんの彼女の名前じゃないんですか!?」
私がうっかり問い詰めてしまいそうなのを、先に他の女子社員が口を開いてくれたおかげで抑えられた。
「彼女? いや、綾部さんしばらく彼女いないって言ってたけど? 友達にはしょっちゅうマリのこと惚気てたから、それ聞いて勘違いしてたんじゃない?」
「えええっ!?」
そこに居た女子社員の人たちは本気で驚いた様子を見せていたけど、私に至ってはそんな比じゃなかった。
——“マリ”さんは……いなかったの? 将来一緒に家庭を作ることを考えている本命の彼女は……。
以前聞いた綾部さんと同僚の会話を振り返ってみれば、『結婚』ではなく『子供』とか『適齢』とか『準備』なんて言葉を使っていたことに気がつく。それが今となってはトカゲの繁殖に使われてもおかしくない単語だと。
——けど……でも……、だって……。
「あら? 春澤さんどうしたの、具合でも悪いの? 顔が真っ青よ?」
「……どうしよう……私、取り返しのつかないことしちゃった……」
心配そうに顔を覗きこんでくる柳さんの言葉など頭に入るはずもなく、私は震える足に力を込めて、身体が崩れ落ちそうになるのを、ただ必死にこらえた。