イジワル上司と秘密恋愛
意地っ張りな女は好きだ。上手に好きと言えなくて可愛く虚勢を張る姿は、まるで懐かない動物みたいで愛嬌さえ感じる。
ましてや、その意地を陥落させ素直に気持ちを紡がせたときには、男として最高に満たされた気分になる。
春澤志乃は、そんな俺を恋に落とすのに充分な魅力を持っていた。
けれど、三年ぶりの恋だというのに、カウンターで隣の席に座る春澤は俺の真剣な告白をうつろな表情で聞いている。
「俺、本気だから。お前とまじめに交際したいと思って……って、春澤、聞いてるか?」
駄目だ、どうやら酔わせすぎたらしい。俺の方をボンヤリ見つめる彼女の表情は、こちらの言葉など理解してるようには見えなかった。
仕方ない。今日はもう送っていって、改めて後日誘いなおそう。そう考えたときだった。
「綾部さぁん……私、帰りたくない」
オレンジとジャスミンを合わせたような柑橘系のラストノートが、ふわりと俺の胸にしなだれかかってきた。