イジワル上司と秘密恋愛
春澤は酔っているだけだ、これが彼女の本心かは分からない。
そう頭で理解しているものの、久しぶりの恋でうかれていたのか、俺は彼女の肩を抱き寄せながら指先で黒髪を弄ぶ。
「大人をからかうなよ。今そんなこと言われたら、冗談で流せなくなちゃうだろ」
独り言のように苦笑交じりに呟いて、俺は眠りについてしまいそうな春澤の肩を支えると、ダイニングバーを後にした。
夜の九時を回ってもまだ賑わいを失わないオフィスと歓楽の街。
俺はタクシープールのある方角とホテルのある方角との分かれ道で足を止める。
「春澤、タクシーで帰れるか?」
「んー……」
「どこかで休んでいくか?」
「んー……」
意思の全く見えない寝ぼけた返事だったが、二回目の質問のあとに春澤は俺のワイシャツをキュッと握りしめた。
「……少し休んでくか」
その後どうするかは、そのとき考えればいい。
半分寝ているような状態の頼りない身体を支えながら、足をホテルのある道へと向けた。