イジワル上司と秘密恋愛
ヒョウモントカゲモドキの主食は生きている虫だ。大した量ではないけれど小さなワームやコオロギなんかもこの部屋で管理している。
爬虫類に虫。女の子なら悲鳴をあげてこの部屋から逃げ出しかねない。
そう考えると未だ俺に素直になってくれない志乃をここに招くのは抵抗があった。今度こそ本気の『大嫌い』をもらい兼ねないと。
「まあいいや。焦らなくても、いずれ理解ってもらおう」
そう思うしかなかった。なにせ今は部屋に招くどころではない。
俺は今日の志乃の言動を思い出して溜息をひとつ吐く。
先週末デートの誘いを断ったと思ったら、彼女はなんと帰省してお見合いしてきたなどと言い出した。
そのうえ、相手の男と付き合うつもりだと連絡まで取り始めて。
さすがに、何を考えてるんだと叱ってしまいそうになったけど、こちらが軽く咎めただけで泣きそうな表情を浮かべる彼女を見ていたら、そんな気持ちも静まってしまった。
——この子は俺のことがこんなに好きなのに、どうして気持ちと裏腹な態度ばかりとるのだろう。
自分に考える余地を与えてみれば、導き出た答えはただひとつ。彼女はきっと不安なんだろうと思えた。