イジワル上司と秘密恋愛
やっぱり志乃は俺が初めての恋人なのだろう。どうにも距離の取り方が不器用すぎる。
意地を張ったり妬かせようとしたりして気を引こうとしてたかと思えば、素直に甘えてこちらの心も身体も蕩かせる。
そしてやっと心を開いたかと思えば、会社であやうい態度を見せつける。
終業後、俺はラインの返事がない彼女のマンションへ向かいながらひとつ溜息を落とした。
志乃のそういう不器用さは好きだ。幼くて純粋さの名残のようで。けれど、あまりに計れない彼女の心の内と行動に、自分はどうするべきかと考える。
——もっと愛して、もっと優しくして、意地っ張りで不安定な彼女を丸ごと包容してやらなくちゃ駄目なのかもしれない。
けれど、これからはそれを容易にはしてやれなくなると思うと、またひとつ溜息が零れた。
以前から聞いていた西日本の新事業部の話。思うように展開が進んでないとの報告は耳にしていたし、もしかしたら白羽の矢が自分に当たる覚悟もしていたけれど、まさかこんなに早急に話が進むとは少し予想外だった。
今日の終業後に突然『来月からの異動になるが考えてみて欲しい』と言い渡された西日本事業所への異動話は願ってもない昇進のチャンスでもあるのに、志乃のことを思うと手放しで喜べない。
今彼女のもとを離れるのはあまりにも心配だ。
——どちらにしろ、直接会って話をしないとな……。
果たして今夜の志乃は俺の話にどんな反応を見せてくれるのか。なかなか掴めない彼女の心を思いながら、道中を急いだ。