イジワル上司と秘密恋愛
けれど、着いた先で目にした光景は酷いものだった。
志乃のマンションにはセキュリティがないので、部屋の前まで直接行ってインターホンを鳴らす。ところが応答のない部屋に、どこかに出かけたのかと思いここでしばらく待とうかと考えたとき……ふとマンション前の歩道に視線をやって、俺は目を疑った。
外灯がほの暗く照らすひとけのない歩道。そこで仲睦まじい恋人同士のように男とキスをしているのは、紛れもなく志乃だった。
すぐさま駆けて行ってその男を殴ってやろうかという衝動も沸いたが、男と離れた彼女がこちらに向かってくるのが見えて少し冷静になれた。
男を追及するのは後だ。まずは俺の手を焼かせてばかりいる志乃を、叱ってやらなくちゃならない。
これからのことを考えなくちゃならないときに、なおも困らせようとする彼女に大人げなく苛立ってしまったのも確かだ。
「会社を早退して男とイチャついてるとは思わなかったよ」
階段を上がってきて驚いた目で俺を見る志乃に、冷ややかな視線と言葉を投げ掛ける。
本当は彼女の身体を気遣って、もっと優しい言葉をかけて抱きしめてやりたかったのに。
「お前の体調を心配してやった俺の立場も少しは考えろ」
焦りと嫉妬と苛立ちで、泣きそうな表情を浮かべている彼女をもっと追い詰めたくなってしまう。