イジワル上司と秘密恋愛
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ひとつの恋を終えて発った東京。
心残りがないといったらウソになるけれど、俺は気持ちを切り替えて兵庫に向かう新幹線に乗った。
正式な就任日は明日の十月一日からだけど、すでに新しい事業部への顔合わせも済ませ、業務の方にも着手し始めている。
今日も取引先の担当者が事業所の方へやってくるというので、俺は自分の引越しの荷解きもそこそこに午後から出社することになっていた。
まだ馴れない新しい部署の自分のデスク。そこで改めて取引先の情報を確認していると、事務の社員が「リカーマーケットのセレクト担当の方がお見えになりました」と俺を呼びに来る。
頷いて席を立ち前任者と共に応接室へ入っていくと、中年の男性とまだ若そうな女性の担当者が待っていた。
そして、一礼してから上げた相手の顔を見て——俺は驚きのあまり目を瞠った。
思わず声に出しそうになったが慌てて口を噤み、心の中だけでその名を呼び掛ける。
『——麻里絵……?』
こちらを見て何かに気付いたかのようにニコリと瞳を細めた目の前にいる女は——
——三年前、俺にたくさんの思い出と黄色いヤモリを残して別れた、元恋人だった。