イジワル上司と秘密恋愛

相変わらず綾部さんとの接触が出来ず落ち込む一方で、息つく暇のない忙しさは私から悩む時間を奪ってくれた。

毎日家に帰る頃には疲れ果てて、お風呂に入って着替えるのが精一杯。食事もとらずに寝てしまうことも多々ある。

体重も少し落ちてしまったし、通勤の電車では毎日うたた寝してしまうほど疲れる日々が続いたけれど、私はこの仕事に充分すぎるほどのやりがいを感じていた。

もうこのまま恋なんか忘れて、仕事一筋に生きるキャリアウーマンお目指すのも悪くないかも。

そんなことまで考えられるほど新事業部の仕事は充実していて、落ち込んでいた気持ちも晴れかけて来た頃だった。


六月のある日。
ヒアリングに八件もの店頭を回って帰社した私は、いつもなら階段で五階のフロアまで戻るのだけど、さすがに今日は足がクタクタでエレベーターを使うことにした。

時間はもう午後七時を過ぎているせいで社内に残ってる人も少なく、一階のホールに着いたエレベーターにも誰も乗っていない。

ひとりだと無駄に広さを感じるエレベーターに乗り込んで、ボタンを押そうとしたとき。

「あ、待って」

そんな声がしてこちらへ向かってくる人影が見えた。

そして、エレベーターへと駆け込んできたその人を見て、私は思わず目をしばたいて呼びかけてしまう。

「……綾部さん……」
 
< 151 / 239 >

この作品をシェア

pagetop