イジワル上司と秘密恋愛

あんなにふたりきりで会って話がしたいと思っていたのに、いきなり心の準備がないときにそうなってしまうと、どうしていいか分からない。

綾部さんはエレベーターの閉めるボタンを押すと、続けて五階のボタンを押した。

——ああ、どうしよう。何か話さなくちゃ。やっとふたりきりで話せるのに。

気持ちばかりが焦って頭の中が上手くまとまらない。

口を開きかけては噤むのを繰り返し、彷徨わせていた視線を綾部さんへ向けた。すると。


「元気だったか?」


こちらを向いた綾部さんが目もとを細め、優しい笑顔でそう話しかけて来た。

「……はい」

驚いてしまって呆然と答えながら、私は自分の胸が震えるほど感激しているのが分かった。
 
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