イジワル上司と秘密恋愛
「なあ春澤。こんなこと言うのはなんだけど……お前、関東の事業所に戻る気はないんか?」
「え?」
「いや、気を悪くしたらゴメンな。春澤がよくやってくれてるのはもちろん分かってるけどな。でも多分、若くてしかも一般職の女がいきなりひょっこり現れて活躍するのを面白くないと思う連中もいるんだろうなあと思って」
「それって、私につまらない妬みに屈して関東へ帰れってことですか!?」
「いやいや、だから怒るなって。ただお前の身の安全を考えたら、最悪それも考えざるを得ないなーって話だよ。だって『死ね』だなんて脅迫じみた嫌がらせまでされてるんだろ? あんまり悠長に考えないほうがいいんじゃないかって……」
新海課長の言い草に、私は心底ガッカリした。
こんなことなら相談するんじゃなかった。もっと上司として解決策を講じてくれるような頼れる人だと思ってたのに。
「お断りします! そんなの相手の思うツボじゃないですか」
私はクルリと背を向けると、飲み終えたコーヒーの紙コップをゴミ箱に突っ込んで、肩を怒らせながらフロアへと戻った。