イジワル上司と秘密恋愛
会社には遅刻の連絡をしたときに事情を話しておいた。
病院で精密検査を受け怪我の治療をしてから出勤すると、時間はもう正午近かった。
「春澤! 大丈夫か?」
フロアに入ると、新海課長はじめ社員の人たちが心配して駆け寄ってきてくれる。
「大丈夫か? 歩けるか? 無理すんな」
「大丈夫です、捻挫とあちこち打撲だらけだけど骨折までは至らなかったので。すみません、ご心配お掛けしました」
「駅の階段から落ちたんでしょう? 可哀想に、痛かったでしょう」
「しばらく外回りは僕らに任せていいからね。春澤さんはデスクで出来る作業だけにしなよ」
口々に心配してくれるみんなを見ていると、この中に犯人がいるとは思えなかった。
社内での物の紛失から始まったので一時は同じフロアの人を疑ってしまったけれど、思い違いかもしれない。
あちこちに湿布や包帯を巻いている私の姿が痛ましいのか、みんな過剰なほど私を心配して気遣ってくれる。
「春澤さん、何か取りに行くものがあったら言ってね。私が行ってきてあげるから」
「すみません、ありがとうございます」
隣の席の片桐さんとそんな会話を交わしているときだった。
フロアの奥にあるパーティーションから、綾部さんがこちらに向かって歩いて来るのが見えた。